瑞穂を家に上げると、私は台所の肉じゃがにまた火をかけた。

出来上がって火を止めてからちょっと時間を置いていた為に、肉じゃがが温くなっていた。

「おぉ！乙女の手料理最大級の最終兵器肉じゃがじゃあぁりませんか！私好きなんだよねぇこれ。」

「大袈裟だってば、母さん帰ってくるまではおわずけだか…」

そこまで言いかけて、今度は携帯が私の言葉を中断させた。

今日はショックな事があったり来客が来たりと、私の落ち込む暇もない状態だ。

その電話の相手は、何のイタズラか母さんからだった。

携帯を見て手が止まる。

何だろう、いつもの名前なのに私はその名前がまるで初めて見る名前のような錯覚を覚えた。

まるで、親子なのに他人であるかのような、そんな気分になっていた。

-母さんは私の本当の親じゃない。-

その現実がそんな錯覚を思わせるのか、通話ボタンが目と鼻の先にあるのに、それを押す指だけが金縛りにあったかの様に動かなかった。