ダメだ




ダメだ、ダメだ、ダメだ。

ここで動揺してはイケナイ。



必死で手を握った



爪がくいこむぐらい




手汗がじわりとにじむ。

















「あの、ルイって?」






「ルイって言うのは通り名のようなものだけど
とにかく危険な人物だ。
目撃情報では背が低い声の高い奴。



通りかかった奴は男、女関係なしに容赦ねぇ
そいつがこの近くに現れた」








…きっと昨日の喧嘩なのだろう




危険な人物。


少し心臓が痛い。















「たまたまその近くに俺らの仲間がいてな?
声をかけたら逃げられたらしいんだけど…」











昨日の声をかけた人だ、きっと。





嫌な空気が流れる




動揺しちゃ、イケナイ



きょろ、と周りを見渡しつつ気づかれないように深呼吸。








「ねぇ、礼央さん。君の家ってあの店の裏ですよね」



メガネの人が急に声をかけてびっくりした





キラリと光る銀フチメガネの奥にそれより嫌にギラリと光る灰色の瞳






黒っぽいが少しだけ白みがかっていて灰色っぽく見える


神秘的な目だ



その目にビクリとした



「は、はい…」








何故、それを?





「その近くです。何か悲鳴とかを聞いてませんか?」





「き、聞いてません…」




不覚だった



家に近い場所で喧嘩するなんて…










そうだ、







あの時はまだそんなに遠くじゃなかった








住宅地を左にずっと進んだ場所。