でも、私には才能がない。

どれをとっても普通なんだ。

容姿も、成績も、……音楽のことも。


私もピアノや歌をやってみたりはしたけど、ママや楓みたいにはいかない。

弦楽器も始めたけど、お兄ちゃんの存在がいつも私を打ち消す。

ママ似で茶色いふわふわの髪や白い肌をもつお兄ちゃんや楓とは違って、セミロングの私の髪は黒くて硬くて、肌なんてすぐに焼けてしまう。


まるで私だけ違う家の子みたいに。


「まぁさ、気にすることないよ。椿は椿じゃん!」


笑って励ましてくるモモ。

「ありがとう」と呟いたと同時に先生が入ってきた。

席を立っていた皆が一斉にガタガタと動き出す。

モモも「また後でね」と言うと席に戻っていった。