むっかぁぁぁぁ!
怒りにうち震える私の横で、風雅先輩が困ったように微笑む。
「椿ちゃん?いこっか?」
「でっ、でも…」
お使いに忠実な私は中々引き下がれずに、チェロを弾き始めた杉本先輩を見る。
風雅先輩は頭をかくと、小さなため息を吐いた。
「こうなると晴海は返してくれないんだよ。使い終わったら椿ちゃんに返却するから…何だったら俺が持ってくよ?」
「いえいえ!いいです!」
申し訳なさそうな風雅先輩を見ると、逆にこっちが恐縮しちゃう。
私は杉本先輩の言うように弦楽部に入るつもりだし、多分、お兄ちゃんもすぐに楽譜が必要にはならないだろう。
杉本先輩の演奏が聞こえ始めた。
美しいその音に鳥肌が止まない。
「彼の背中には天使の羽があるんだよ。」
「へっ?」
「君も思ったでしょ?なんて美しいんだ、って。」
私の心を見透かすような笑顔。
あらがいようもなく、素直にうなずく。