「あの…兄が昨年度の高3だったのですが、楽譜を忘れたとかで持ってきてほしいと頼まれまして…」

「あぁなんだ、そういうことか。」


思ったよりもすんなり頷いて、彼はまた扉に手をかける。

扉を開けて――…今度は顔にぶつからないように、なんてからかわれた。


「さ、入って。」

「あ…ありがとうございます。」


一礼をして「失礼します」と小さくつぶやいてから中に踏み込んだ。

1階と2階が吹き抜けになっているエントランス。

作りは古いけれど、とても綺麗に手入れされている。


「お兄さんの名前、あとパートわかる?」

入って左にかかっている大きなボードに近付きながら彼は言った。

1stバイオリン・2ndバイオリン・ビオラ・チェロ・コントラバス、という風に一パートずつまとめてある。

名前の書いてある札がかかっているボードで、以前ドラマで寮とかにかかっていたやつだ。