友梨はそっと右手で胸を押さえる。


名前を、呼ばれた。


『友梨』


……と。


普段、彼から呼ばれている『深山咲』と、言う、名字ではなく。


ファーストネームで。


『ゆうり』


と、どこか、寂しそうな声で。


たった、3文字。


それだけ、なのに。


苦しくなる位、鼓動が、速い。




「……」


ダメ…ダメ…


聞いたら、ダメ。




友梨は足音を立てないように気をつけながら、逃げるようにその場から離れた。


そして、ひとつ門を曲がった廊下の隅で、ガクガクと膝を折って座り込む。