ここ最近の切なげな、痛々しい瞳でも、過去を嘆く、光を寄せ付けない瞳でもなく、優しく柔らかな、けれど少し甘えた、悪戯な瞳。
「……」
「条野さん?あまり上手ではなかったかしら」
和音から何のリアクションももらえず、しょぼんと、友梨は肩を落とした。
その様子が可愛くて、和音はクスクスと笑ってしまう。
「いじわる」
「そうですね。いじわるかな……すみません。談話室から、ピアノの音色が聞こえたもので」
そう言いながら、先程耳にした音色は十指(じゅっし)だった事を思い出した。
片手を包帯で包まれている友梨の筈がない。
つい自分だけが雪の中に放り出された様な気になって、そんな事すら気付かなかった。
「今日非番の、看護師さんが子供達の様子を看に来て下さったの。私より、お上手」
ほんの少し、2人で笑って。
けれど瞳がかち合った瞬間に、友梨はフワリと傘から抜け出した。
「もう、いかなきゃ」
そう言って彼女は、どこまでも優しい微笑み。
「深山咲、さん?」