しんしんと……

静かに雪が、降り始めていた。


窓の外が暗く翳りはじめても、和音はひとり、図書室から出る事が出来なかった。


『時間を、下さい』


あのあと和音が狩谷に告げられた台詞は、これだけだった。




時間を、下さい。

彼女を

諦める為の時間を。




過去の友梨を無理矢理引き出し自分を嫌悪し憎まれたいのか。


それとも2人でやり直したいのか。


現在の友梨と過去を封印して生きていくのか。


過去に怯えながら、生きていくのか。


「……無理だろ、そんなの」



今朝から何度となく考えても、現在の友梨が神を、芳情院を裏切り自分を選ぶなど考えられない。


過去の友梨を引き出してカウンセリングを受けたとしても、それで本当にオレ達は前に進めるのか?



大体夫婦間の問題に他人の手を借りなければ進めない未来なら、もうそれはどうにもならないという事ではないのだろうか……


どうにもならない


どうすることも出来ない


なのに、友梨を諦められない



未来は、時間は、まだこの手の中にあると。


そう思えた自分は、やはり若かったのだろうか。