そんな。
子供が感じるような単純な自己満足と、今となっては滑稽でしかない過剰な自惚れ。
友梨を、見つめているつもりが。
友梨の瞳に映る、自分を見つめていた。
まるで神話のナルキッソスと同じだ。
どこまでも浅はかで、どこまでも愚かな。
「芳情院さんの意見は、先刻の通り。アナタの意見に任せると。お父上は、今朝の友梨さんの状態を目にして、今の友梨さんを救ってやりたいと、記憶を引き出す事には反対されています」
「……」
「だとすると次に彼女にすべき治療は現実の再認識と精神の平穏状態の回復。彼女の場合明らかな精神疾患ではなく、二重人格な訳でもなく、本人の意志で『記憶』に目隠しをしている。だとすれば……」
「待て……頼む。待ってくれ。だとすると……」
「……」
「だとすると、またオレが、愛する者を殺すのか……?」
知らずに握りしめる、胸にかかるロザリオ。
「……そんな言い方はしませんよ」
「同じ事だろう?今現在の友梨を救う?それは……過去の友梨を封印する、そういう事だ」
「彼女は二重人格ではないと。人格を統合するのではなく……」
「解ってる!けど友梨は……オレの、友梨は!」