和音の視線がテーブルに落ちたのを確認すると、狩谷は用意していた友梨のカルテを差し出した。


「今朝、芳情院さんとお父上には話してあります『記憶』を引き出すリスクと、引き出さないリスク。どちらにしても彼女は、強くならなければ生きていけない」



「待てよ、彼女はオレを忘れる為に記憶を消したんだろ?だとしたら引き出したとしても彼女の傷を抉るだけだ。それにオレとは……」


「それは彼女が決めることだ。アナタも過去に言った筈だ。決定権は彼女にあると」


「それはッ!」


------それは。


このままの状態が続けば、いつか全てがうまいほうに転がるのではないかという、淡い希望と。


自分は友梨に選ばれるのではないかという、不確かな自信。


「それは……アナタの願望が叶った時のみの決定権、ですか」


「……!」


「反復強迫、衝動断念、彼女が生きてきた過去はアナタが思っている以上に深く暗い。けれど以前の条野さんには、その全てを受け入れて幸せにする自信があった」




そう。


ただ、友梨を。


誰よりも愛している……だから。


もう、彼女を。


苦しめない。逃がさない。