ヒュルル。
風が吹く。
それと同時にカサカサと落ち葉が歌う。
季節は夏から秋へと姿を変えた。
ここの地域は変わり目が速く、気が付けば半袖の上に何かを羽織るようになっている。
だけどまだ温度は20℃を越えている。
「ちょっとお買い物行ってくるわね。お留守番よろしく、美月ちゃん」
「はい、任せてください」
あたしは夏希さんを見送ったあと、即座に翔太くんの部屋へと駆け込む。
そこには苦しそうに寝込む、翔太くんの姿。
一昨日熱が出てから寝込んでいるのだ。
「大丈夫?翔太くん」
「はぁー…うん…ケホ、ケホ」
あたしは額に載せてあるタオルを取る。
さっき冷やしたはずのタオルは直ぐ暖かくなってしまうので、大変な作業だったりする。
桶の中に氷水が入っていてそこに付けて、絞り、額に載せる。
この作業の繰り返し。
「ん…っケホ」
こんなに熱を出して弱っている翔太くんは、この家に来てから初めて見たのだった。
少し、涙ぐむ翔太くん。
だからこそあたしは放って置けなかった。
苦しそうにしてるのを。
残念ながらあたしの母、菜々子は、前住んでいた地域に帰り、何やら友達とランチ。
そして達大さんと父、圭介は会社に行ってしまっている。
夏希さんは翔太くんの薬等を買いに薬局へ。
だから唯一看病出来るのはあたしだけだった。
「翔太くん、何か欲しいものある?あたし何でもするよ」
荒く息をする翔太くんに話し掛けるのは悪いかな、なんて身を引いてみるが、やっぱり、翔太くんに何か不十分なものがあったら大変だ、と思い、聞いてみた。
「…に……て…ケホ」
「……え?」
「ケホッケホ、ここにいて…」
「翔太くん…」
翔太くんが布団から伸ばすその手をあたしは取り、自分の手を重ねる。
「大丈夫、あたしはここにいるよ」
「…み……づき…」
それだけ言うと翔太くんは眠りについた。
あたしは眠りにつく翔太くんの顔を見て安堵する。
翔太くん、あたしが《ネモトカズキ》に襲われたって聞いて、わざわざ出かけていた所から電車で帰って来てくれたんだよね。
まだ真夏だったから汗だくで帰ってきて、汗も拭かずにあたしを心配してくれて。
「ありがとう」
本当に感謝してます。
あたしは翔太くんの額のタオルを替えて、少し滲んでいる汗を拭き取る作業をした。
すると。
「……は…る…」
「…え?」
なぜか翔太くんが遥の名を呼んだ。