「いらっしゃい!」
「ウチの自慢のたこ焼き、いかが?」
「ひんやり冷たいかき氷、どうだい?」
にぎやかな声が商店街あちらこちらに響き渡る。
屋台ごとの派手な飾りが目に付く。
道には人が溢れかえり、熱気が凄い。
「さすが祭りだね」
優雅に扇子を片手にする美波が呆れながら呟く。
「凄い人混みだよ」
「怜も連れてこれば良かったー」と花恋が彼氏の事を愛しく思うのだ。
八千代祭り初日。
人は溢れかえる程いる商店街。
笑顔と笑い声があちらこちらから聞こえる。
電線に繋がる行灯が暖かい光であたしたちを照らす。
すっかり、暗くなった空に輝く星たち。
残念ながらまだ月は見えていなかった。
「あ、あんず飴だ。おいしそー…」
あたし二人に何も言わず、フラりあんず飴の屋台の方に寄り付く。
そこには色鮮やかなあんず飴がズラリと並んでいた。
「お?嬢ちゃんどれにする?今一番人気ならこの、あんず飴だよ」
あたしは迷わずに答えた。
「じゃあ、そのあんず飴で!」
威勢良く言うあたしに店長が声を出して笑い、「ほらよ。タダだ」とあたしにあんず飴を渡してくれた。
「タダッ!?」
「あぁ。タダだよ。嬢ちゃん、かなりの別嬪さんだからなぁ」
「そっそんな……!!」
あたしは手元にある、キラキラしたあんず飴に目を向ける。
今にも食べたくなる。
「ありがとうございます」
あたしはお礼をして、二人のところに向かおうとする、が。
前後左右、花恋と美波の姿は無かった。
あたしは後悔してしまった。
自分の意志で行動してしまったことに。
「…この人混みだと探すのも困難だよね…」
あたしは財布などの入ってる籠バックから携帯を取り出すが、この人混みの中は携帯の音を掻き消すだろうと思い、あたしは携帯をしまった。
さあ、どうするか。
あたしはあんず飴を片手にただ人混みの中、立ち尽くす。
とりあえずこの人混みの中から抜け出そうと、あたしは屋台と屋台の間を通り、草むらに出た。
草むらはさっきの人混みとは裏腹に、祭りの音さえ掻き消すところだった。
人はあまりいなく、居たとしても屋台を拓く人が材料の補給するだけ。
客ならあたしぐらい。
あたしはそのへんにあったベンチに腰掛け、あんず飴を一口食べた。
すると、知らない人があたしに声をかけた。
「そのあんず飴、美味しそうだね」
あたしの手から、あんず飴は地面に落ちた。