「極楽…」

湯に浸かりながら心の声を出す。
上昇して行く湯気をただじっと見つめて。
身体が暖まって行くのを感じながら。
あたしは濡れた手で頬を擦る。

『美月ちゃん』

優しい遥の声があたしを呼ぶ。
心に響く遥の声。
聞こえる口付けの音。

あたしの心は遥いっぱいに。
“奴等”な事でズタズタになったあたしの黒い心は、僅かに遥で侵食されていた。

だからだろうか。

その侵食された部分に堆積していってる。
堆積していくもの。
それは言うまでもないだろう。


『…美月を苦しめるもの、俺にも頂戴?』



遥だ。
あたしは遥に溺れているんだ。
こう言うのを“恋”って言うんだよね。
もう自覚したのだから、後ろは振り返れない。
違う。
振り返らない。

遥との時間を、守りたいから。

一瞬、一秒でも多く。
刻まれて行く時を大事にしていきたい。


湯に浮かぶ輝く月を見つめながら。
ふと、考えていた。


バシャッ。

「っ!!??」

「なぁにボーッとしてんの?」

ニヤつく花恋に目を細める美波。
失態。
この二人が居ることをすっかり忘れていた。

「ごめん…」

「あ!しおらしくなった」

「やめなよ花恋。美月が泣くよ」

うるさい花恋に大人っぽい美波。
あたしをからかう花恋をどかし、美波はあたしに寄ってきた。

「…それにしてもこのお風呂、広いね」

「そうだよねー…あたしもさっき思った」

美波と花恋の呟き。
その二人の感想は間違っていない。
普通、三人いっぺんに入れるお風呂なんてない。
まぁ、ここが異常なだけだけど。
こんなこと思ってるあたしは、慣れないって言えば嘘になるけど…。



『呼び出し』



「―――っ…!」

パシャン。

あたしは肩を上げた。
ビクッと身体が跳ねたみたいに。
頭の中で聞こえただけなのにリアルに今、聞こえた気がしたから。

「どうしたの…?」

心配そうにあたしを覗き見る美波。
あたしはただ笑って返すことしか出来なかった。

花恋が何かを企んでいるかなんて、知らずに…。



あたしたちはお風呂から出て、身体を拭き、用が済んだ後、洗面所を出た。