それからあたしは遥の口を開くのを待った。
そして遥が口を開いたらあたしはとんでもない事を耳にする。

「“遥…遥…”って俺の事を名残惜しく呼んでた」

「っ!!」

あたしは何も言えず、口をパクパクさせる。
そして身体の熱を沸騰させ、顔を真っ赤にする。
それに気付き両手の甲で顔を隠した。

何たる失態!
あの夢からどうしてこうなるのだろうか。
寝言まで“遥”だなんて。
これじゃあまるで…。
あたしが遥の事が好きみたいじゃないか。

「好きなんでしょ?俺の事」

「っ!!」

怪しく笑う遥の顔と鼓膜を揺るがす甘い声が上から降ってくる。
あたしは図星したような表情をした。

「…ど、どうして?」

「全部口に出てたよ」

「◇◎※@▲!?」

あたしは声にならない声で絶叫し、遥の膝枕から逃れ、遥に背を向けるようにベンチに座る。

「…」

あたしは固く口を閉ざし、硬直する。
足元に生える露草を目を丸くして見てみる。

恥ずかしい。
あたしはその五文字では表せない程、羞恥している。
無論、赤くした頬を手で覆う。

そんなあたしとは裏腹に、遥は喉を鳴らし静かに笑う。

「…っく…冗談だってば」

遥は笑い混じりでそうあたしに言い聞かせた。

冗談?
あたしの、寝言が冗談?

あたしは抑えられない苛立ちと恥ずかしさに、遥の方を向き思わず声を張り上げた。

「遥のばか!ばかばかばか!」

あたしは暴言を吐く。
遥は呆気にとられている。
だけどどこか愉しそうだ。
なぜだろうか。
口角は上がっていないが目が笑ってる。

「…どうして遥はそんな冗談なんて」

「なぜだと思う?」

あたしは「え…?」と小声を漏らし、あたしを見つめる遥を見る。
先程とは別に、遥は控えめな笑みを浮かべていた。
そんな表情を見ると時折、胸がぎゅっとなる。
流れる沈黙が息苦しい。

「…なぜって…」

消えるように呟く。

空が茜色。
きっと夕日は綺麗だろう。
すると茜色の光の筋があたしと遥の間を一直線に進む。
あたしと遥を光が仕切るように。
その眩しさに、目を眩ませた。

「…嘘です」

ぽろっと出た言葉を隠すように遥は自分の唇をあたしの唇で塞いだ。

今確かに遥の声は震えていた。
目に映るのは眉間にシワを寄せ目を閉じた遥。

どうしたのだろう。

あたしはただ不審を抱く事しか出来なかった。