温かい風。
浮遊な感覚。
あたしは少し霞んだ真っ白な空間に浮いていた。
ここはどこだろう。
声を出したいのに出せない。
走ろうとしても上手く走れない。
目の前に何かが現れるが、触ろうとして手を伸ばすと霧のように消えて行く。
どうしてあたしはここにいるの?
フワフワと浮かぶ身体がリアルで気持ちがわるい。
あたしはそのまま動く事なく、ただ不動していた。
その途端。
一筋の茜色をした光が真っ白い空間に色を着かせた。
なんだろう。
気になって光の源を辿ろうとした時、あまりの眩しさに目を眩ませ、揺らぐ感覚に身を丸めた。
プチン。
あたしの朦朧とした意識は途切れた。
――…
「…んー…」
うっすら目を開けて見ると、茜色の光が眩しく差す。
目の前に映る空が茜色に染まっていて雲も消えそうだ。
ふわり。
風が吹く。
視界の輪郭にある木々がざわめく。
そして視界の隅に見える、あるもの。
手を伸ばし、それに触れようとした。
「…やっと起きましたか」
聞きなれた声がする。
あたしはその声の方向に身体を傾けた。
「…は…る」
「おはよう。美月ちゃん」
目を細め優しく微笑む遥がいた。
遥の白い肌が夕日に照らされ橙色となる。
艶やかに光る黒い髪が風で揺らいだ。
ソッと、遥があたしの頬に手を当てる。
顔にかかる邪魔な髪を耳にかけていき、壊れ物を扱うように優しく頬を撫でた。
あたしは遥の膝を枕にしているらしい。
「夢…見ましたか?」
「…夢…?」
あたしは空を眺め、思い出す。
温かい風に煽られてフワフワ浮いていた。
アレが夢。
夢という夢は見ていなかった気がする。
「見てない…な…」
「ふーん。なんか言ってたけど?」
「え?…なんか言ってた?」
「うん」
遥は怪しげな笑みを浮かべ、あたしをじっと見つめる。
あたしはなんか寝言を言うような夢だったのか考えた。
だけど、そんな夢は見ていないと遥にもう一度言った。
「本当?」
「うん!夢見てないし!」
「…そっか。じゃあ俺が聞いたのは空耳かな?」
遥は悲しそうに呟いた。
何を聞いたのか、気になりあたしは遥に問いかける。
「…何を言ってた?あたし」
「聞きたい?」
「…っ!」
さっきの表情とは裏腹に、口角を上げ、目を細め、怪しげな笑みを浮かべていた。
「うん…」
「じゃあ教えてあげましょう」