「…暑い…」

7月下旬だからといって舐めてはいけないもんだ。
日射しが、ガンガン肌に刺さり焼けそうになる。

「日焼け止め塗ってくればよかったなぁ」と後悔した。
長く下ろした髪が邪魔でしょうがない。
あたしは丁度腕にしていた黒いヘアゴムで髪を高い位置で縛った。

「ちょっとは涼しくなったかな」

あたしは髪を靡かせ、目の前を見る。
そこには石段。
あたしは何か決意をしたように深呼吸をし、一気に石段を駆け上がった。

頂上まで上がった頃には息も荒く、足が痛かった。
そしてその場にしゃがみこむ。

「…はぁ、…疲れた…」

「お疲れ様です」

その声に身体がピクッと反応する。
疲れもどこかへ飛んでいき、あたしは顔だけ上に上げ、その顔を見た。

「遥!!」

「元気がいいですね」

そう言うと遥は柔らかく微笑んだ。
暑いのか、遥は日傘をさしている。
それにしても今時ない傘だ。
昔、良く使われていた紙と木でできた傘だった。

あたしはボーッとその傘を見ている、と。
遥は呆れたような顔して目を細めた。

「入りますか?」

あたしがいかにも羨ましそうに見ていたのだろう。
遥はあたしの方に少しだけ傘を傾けた。
頭に少しだけ影が乗っかる。
そこだけじわじわと冷たく、何かが冷めていくように、涼しい。

入りたい。
内心、そう思っていた。
だけど口に出したのは素直じゃない言葉で。

「…入らない」

こう言った。
そして、その場に立ち、踊り場の方に向かって行く。

「やれやれ」

何やら愉しげに言う遥。
あたしの後ろからは下駄が参道を擦る音が聞こえる。
あたしは負けじと、大股で歩く。
そしたら笑い声が聞こえた。

「また転ぶよ」

遥の言葉は的中してしまった。
気付いた時にはもう遅くて。
あたしは後ろに倒れ、思いっきりおしりを打つ。
それと同時に、付いた手に擦り傷が生じた。

「痛っ!!」

「ほら、言ったでしょう?」

「…うぅ…」

遥はクスリと笑い、あたしに近付きしゃがみこんで、こう言った。







「…そうゆうところ、嫌いじゃないよ」








言葉が出なかった。
トクン、と鳴った胸からじわじわと熱が伝わった。
何故だか、嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいだった。