十分くらいだろうか。
気が付けば長電話になっていた。
あたしはハッとして、本当の要件の話しに持ち掛けようとした。
「…そろそろ、本当に要件を」
『あー、はいはい』
…全然わかってないな。
まぁ、いい。
あたしは、どうしてこっちに来るのか、と聞こうとした。
『…そっち、八千代祭りあるでしょ?』
「やちよ…まつり…?」
八千代祭り。
なんだそれ。
この町にそんなお祭りがあるんだ…。
知らなかった。
だけど、もうすぐお祭りが行われる事は知ってたけど。
八千代祭りのことなのかな。
でも、そのお祭りって…。
「お祭りって、28日じゃなかったっけ」
『そうだけど?』
当たり前のように言わないで下さいよ。
花恋たちは明後日来るんでしょ?
それにお祭りに参加したいみたいだし…。
「お祭りに行きたいんじゃ…」
『うん、だから…』
花恋は何か言いたげで、黙り込むと、こう言った。
『新美月ん家に泊まろうと思うの!!』
「………っはい!?」
あたしは驚きのあまり、何も言えなかった。
あのあと『もう、菜々子さんには言ってあるからー、了承貰ったし』と、言いたいだけ言い、電話を切った。
コトン。
あたしは携帯を手から落とし、その場に倒れこんだ。
明後日、花恋と美波が来る。
この壮大で豪華な大久保家に泊まると言う。
しかもすでに了承済みだと。
「…なんてこった……」
「何が?」
あたしはビクッとし、声のする方へ視線を向ける。
視線の先は障子。
そこには障子に身を隠したある人物。
「…翔太くん」
障子に隠した身を露にした翔太くんは、罰の悪そうな顔をしていた。
そんな翔太くんの視線からあたしは逃げるように背けた。