「着いたぞ」
お父さんの言葉に背筋が伸びた。
着いちゃったよ…。
どうしよう…。
今さら断っても、遅いよね。
そんな、断り方を探していたところをお母さんが遮った。
「何やってんのよ、早く出なさい」
「はぁい…」
あたしはどうも調子が乗らなかった。
それもそのはずだよ。
だって、認めてないもん、あたしっ!!
無理に腕を引っ張られ、車から降りると、異様な光景に目がいく。
「わぁ…」
木造建築で和風な造りをした豪邸だった。
渡り廊下がひょっこりと見える。
お庭には木が茂み、特に枯山水が見る人全てを魅了するぐらい奥ゆかしさをだす。
さっきの青い海もなかなかの絶景だったけど、この迫力のある美しい、いかにも“日本の文化”に従って作られたお家は初めてだ。
凄い…。
あたし、今日からここに住むんだ…。
あたしの胸は高鳴った。
だけど、どことなく、違和感があった。
なんでだろう。
「ま、いっか」と小さく呟き、車から持てる限りの荷物を持つ。
後の大物の家具や、貴重品などは大型トラックが届けてくれる。
「重たいなぁ」
荷物の重さに驚くあたし。
その持ち主は、お母さん。
ったく、何が入っているんだか。
重たい荷物を重たい足取りで、お母さんのいる玄関らしき場所に向かっていく。
あそこが玄関かぁ。
きれいだなぁ。
あの花だって、置物だって。
…ってか、お母さん、話してないでいい加減運べって!!
お母さんはちょうど、大久保さんのお母さんとお話をしていた。
「はぁ、もう…」
「持つよ」
「ありがと…って、え?」
不意に背後から聞こえた、透き通るような綺麗な声。
ちょうどいい具合の低いトーン。
誰だろう。
条件反射で「ありがと」って言っちゃったけど…。
あたしは恐る恐る、背後にいる声の主を見てみようと試みる。
が。
そんなあたしより先に行動を取ったのは“彼”。
あたしの顔を除き込んできた。
「◎*※∴∞▲!?」
あたしの口からは決して日本語じゃない言葉が出た。
だって、だって…。
顔が…。
近いんだもんっ!!!
「あは、あはははは」
“彼”は力なく、ただ素で笑っていた。
白い歯が、ちらりと見える。
そう、“彼”は……。