「ごちそうさま」
手を合わせ、食器を台所に持って行く。
今日はたけのこの煮物がメインだった。
他にも、お味噌汁、おひたし、お魚、お米など、あったけど、やっぱりたけのこの煮物が一番美味しかった。
「ありがとう、美月ちゃん」
夏希さんがあたしの方を向き、微笑む。
ペコッとお辞儀をして、あたしはその部屋から出た。
障子を閉めたらあたしは空を見上げた。
「…やっぱり、ここで見る月は違うなー」
大久保家の屋敷に来てから、何もかもが美しく見える。
あたしは自分の部屋へと足を進める。
庭には、桜の花びらが広がってるのもあるが、雪のように舞う桜もある。
まさに“春の雪”みたいだった。
あたしは、まだ開いていた縁側に腰を下ろし、裸足のまま石に触る。
そして空を、眺める。
「……星がいっぱい…」
真っ暗な夜空に精一杯、光を放つ星。
まるで、遥の瞳みたい。
真っ黒の瞳には曇りもなく、濁りもなく、ただ黒一色。
それに加えて、光を放っている。
妖艶に光るその瞳は、野獣のようで。
獲物を金縛りに合わせるみたいな効果がある。
だけど、遥は野獣じゃない。
いくらそんな瞳をしてたって、遥だと、色っぽく見える。
ちらっと見える、鎖骨も。
日焼けを知らない綺麗な、肌も。
細長く絡めやすい、指も。
艶やかな髪も。
遥だから、美しくて。
遥だから、何も言えなくなる。
『美月ちゃん』
あの声も。
あの瞳も。
あの、笑顔も。
遥は知らないのだろう。
あたしが遥のすること全てに、心がけ揺らいでいることを。
「…美月?」
あたしはその言葉で我に返る。
「…翔太くん」
「どうしたの?」と、あたしは笑顔で聞く。
すると翔太くんはあたしの近くにしゃがみこみ、あたしを見つめた。
お風呂に入ってきたのか、髪がまだ、濡れていた。
「…翔太くん、髪濡れてるよ」
翔太くんは、応答しない。
ただあたしをじっと見つめるだけ。
光を放つ、夜空のような瞳で。
「…拭いた方が―――」
「――遥って、誰?」
どっくん。
あたしの胸は、痛いほど高鳴った。