少し、時間が経ち、陽が沈もうとしている。
桜が夕陽色に色付き、また違う美しさを出す。
「…もう今日も終わり、か」
あたしは、ポツリ、呟く。
これで何度目だろうか。
この町に来て、1日の尊さを感じたのは。
今まではそんな事、なかったはずなのに。
『お前なんかいらない』
あの日。
今みたいな風景の中だった。
無邪気に笑っていた“彼”が、あたしを見捨てたのは。
「…美月、ちゃん?」
「……え?あ…ご、ごめん!」
遥の言葉で我に返った。
夕陽に照らされて日焼けの知らない遥の肌が、橙色に染まる。
綺麗。
そう思い、ドキリと何かが音を上げる。
遥ははぐらかすあたしを無視し、ただジッと、真剣な眼差しであたしを捕らえる。
「…な…に…――」
「教えて」
「え……」
教え…て?
何を、教えるの?
「…何、を?」
「美月ちゃんの事」
「…あたしの…事?」
遥は頷く。
そしてあたしは遥の真剣な表情から、逃げるように顔を伏せる。
一体何を教えればいいのだろうか。
遥に教えること、何もないはず。
そうだ。
そういえば、あたしばっかり遥に質問してて、あたしは自分の事、何も教えて無かったんだっけ。
だから、遥は…。
あたしは俯く顔を上げ、遥を見つめる。
もし、このまま、遥に“奴等”の事を話したら、どうだろう。
“「自業自得だね」”
そんな言葉が返ってくるだろうか。
そしてあたしを見捨てて、離れてしまって。
“「大丈夫?」”
同情されるだろうか。
あやされて、慰められて。
どう、受け止めてくれるだろうか。
まだ、逢ってわずかな相手の過去を。
受け止めて、くれるだろうか。
遥は………。
「…大丈夫。言ってごらん」
「俺が全部受け止めるから」
遥はそう言って、悲しく微笑んだ。