「オーマイガーッ!!」

あたしは、大声を出す。
水城神社の踊り場に座る、あたしと遥。
遥はあたしの前髪をかき分け、手当てをする。

「うっ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛ーーい!!!」

この叫び声。
正体はあたしです。
なぜって?
だって…これは…。

「あ、また間違えちゃった」

「ふざけないで!!」

すり切って血が滲むおでこに貼る、絆創膏。
本来なら、一発で貼れるような誰にでもできる便利で簡単な救急道具。
なのに、どうしてだ。
遥くん。
君はどこまで不器用なんだい?
あたしに何度、絆創膏を貼り剥がすんだ!!

あたしは遥から絆創膏を取り上げ、そして遥を睨む。

「もういいっ!!自分でやるから!!」

「えー。俺のやり方に何か不満が――」

「大有りだよ!!」

「まったく…」と、あたしは嫌々自分のおでこに絆創膏を貼る。
それを潤んだ目で見る、遥。
だけどそんなのお構いなしに流す。
そして遥の真似をして「はぁー」と、溜め息を吐いて、ドヤ顔をきめる。

「…何ですか、その顔は」

「あたし、器用ですから」

「会話が成り立ってませんよ…」

要するに遥は、あたしに絆創膏を取られた事に、機嫌を悪くしたと言いたいのか。
なら、直球にそう言えばいいのに。

すると遥は、自分の指先をあたしのおでこに優しく触れさせた。
指先をくるくる回す。

「…なんの、儀式?」

「儀式なんて、酷いなぁ。ただ俺は、痛みが引くためのおまじないをしてるだけだよ」

なんて、遥は100%の笑顔を見せた。
反則だよ、それは。

「それと……」

遥は目を細め、柔らかく微笑んだ。




「もう、怪我しちゃダメだよ?」






ザァッ、と、風が騒ぐ。
お賽銭箱の上の鐘が揺れて、小さく音を鳴らす。
あまり目立たない所にある井戸から、神秘的な音が小さく響く。
小さな音が、聞こえるぐらいに。


一瞬、時間が止まったみたいだった。


「ね?」

あたしは遥から目を離せなかった。
いや、正しくは、離したくなかった。

遥は、今、あたしを心配してくれたんだよね。
優しく、温もりで、包み込むように。

「……うん」

目をそらし、口を結んで下を向いた。
なんとなく、恥ずかしくなってしまったから。


そんなあたしに、風が優しく吹き、熱を持ったあたしの頬を撫でてくれた。