「ははっ」なんて笑いを溢した遥は、顔を離し立ち上がると、「向こうに行きましょう。手当てしてあげるから」と、言った。

あたしは少し、いやかなり、近かった遥の綺麗な顔が急に離れたことに、惜しく思っていた。
もう少しだけ、近くに居たかったと。
あたしは溜め息を吐く。

時間が止まればいいのに。
遥の顔がずっと見られたらいいのに。

「美月ちゃん?」

あたしは見上げる。
すると真っ直ぐな遥の目と絡まる視線に、ドキドキして、そらせなくなってしまう。
遥も一瞬、あたしに驚くものの、少し目を細め、あたしを見下ろす。
そんな遥が少し色っぽく感じる。

すると。


「誘ってるの?」

「……はい!?」

突然の遥の言葉に慌てる。
それに、さっきまで聞いていた遥の声色と違っていて、どこかしら低くなっていて。
少しだけ、身体が強張る。

遥がストン、としゃがみ、あたしを見つめる。

ドクン、ドクン。

敏感に反応するあたしの鼓動。
遥はあたしの頬に自分の手を添える。

ビクン。

肩が、跳ねた。

すると遥はまた「はぁー」と溜め息をついて、首を傾げ不機嫌そうに言った。

「あまりそうやって、誘わないで下さい」

「…え?」

「ほら…そうやって…」

あたしは遥の言っている事が理解できなかった。

「…俺だって、男なんだから…」


遥が恥ずかしそうに、目をそらした。

ドクン。

あたしの鼓動はまた、跳ねる。

これで何回目?
遥の言葉と行動と表情で鼓動が跳ね上がるのは。
あたしの心臓、もたないよ。

「……手当て、しましょうか」

「………は…い」

もどかしいこの空気の中、あたしは遥に手を引かれ、踊り場まで誘導された。