「早く」

その言葉に同意し、あたしはゆっくり、近付いていく。
もっと早く近付きたいのに、何故か上手く足が進まない。
それに不機嫌になったのか、遥は「はぁー…」と、重い溜め息をしてから、踊り場から降りてあたしとの距離を自ら縮めていく。

コトコト、と、現代に合わないような遥の下駄が参道にぶつける。

あと少し、あと少し…。
この距離がもどかしい。

遥。
遥……―――

「うわっ」

「えっ!?」

あたしの視界は揺らぐ。
一気に地面へと倒れていく。

バタン。

「~~~っ!!」

あたしは勢いよく、頭を、正しくはおでこをぶつけた。

こんな歳で転ぶなんて、有り得ない。
しかも、人に見られてるし。
それによりによって、遥だし。
恥ずかしくて、顔を上げられないよ。

「…大丈夫?美月ちゃん…」

あたしは震える手を遥の前にだし、親指を立て、グッチョブサインをした。
それを見て遥は「大丈夫じゃ無いでしょうが」と溜め息混じりで言うと、あたしを起き上がらせてくれた。

「…ありがとう、ございます…」

「いいえ」

遥は少し呆れた顔で、だけど微笑み、あたしの頭をソッと、撫でてくれた。
するとおでこに鈍い痛みが走った。

「ん…」

「…どうかした?」

遥は覗き込むようにあたしを見てきた。
あたしは痛みが走ったおでこを指差した。

「あ、怪我してる」

「ちょっと、見せて」と言い、遥はあたしの前髪をかき分け、おでこを見た。

「…遥?」

「何?」

「…えっと…」

近い…。

「……近い、んだけ…ど」

「ん?」

「んひゃっ!!」

そう、あたしが言うと遥は意地悪に口角を上げ、更に距離を縮めてくる。
「おでこ見てるから仕方ないでしょう?」なんて言ってるけど、見ているのはおでこじゃなくて。

あたしと視線が絡まるばかり。