―――…


「もう…何もしない方が良いのかなぁ」

安静にして。
落ち着いた行動をとって。
何も…しないで…。

空をぼーっと眺める。
春の昼間は暖かいけど、鬱陶しい。
日光浴をするあたしは最近、太陽の暖かさの変化に気付く。

だけど。


「考えるのも、面倒くさい…」

あたしはふと、引っ越す前の事を思い出す。
仲良かった友達。
優しくしてくれた先生。
毎日挨拶してくれた近所の方々。
…不愉快な、“奴等”。

色んな事があったけど、愉しかったかもしれない。

そう言えばあたしの同級生達は今、勉強中だよね。

「がんばれー、みんなー」

力なく棒読みで呟くと、池にいる鯉が、ポチャンと、水面を叩いた。

勉強してないあたしは、まるで浪人生。
いや、ニートか。
家からろくに離れないし。

「はぁ…」

「何をしているんだい」

ポツリと呟いた、後。
背後から聞こえてきた声に、驚く。
振り返ると、中腰になり、笑顔であたしを見る。

「達大さん…」

翔太くんに似て、いや、翔太くんが似たのだろう。
とても整った顔立ちをしていて、歳をとってもカッコいい。
それは誰もが認めるだろう。

「どうした?」

「あ、いえ。ただ、ぼーっと…」

「隣、いいかい?」

「どうぞ」と、あたしは言うと、達大さんはあたしの横に、腰を下ろした。
風になびかれ、キラキラと蜂蜜色に輝く髪が眩しい。
それに、香ってくる匂いが翔太くんと同じで。

スッと達大さんを見てみると、綺麗に微笑み、とんでもないことを口にして来た。

「翔太とキスはした?」

「えぇっ!!」

唐突な言葉に、驚きを隠せない。
それであたしは声を裏返してしまう。

身体の底から熱が込み上げて来るのを悟った。
きっと、あたしの顔はリンゴのように真っ赤に違いない。

あたしはそれを隠すように、顔を俯く。
それを見て、達大さんは「ははっ」と笑い、あたしの頭をソッと撫でた。