どうしてだろう。
無性に遥に逢いたい。

「…は、る?」

翔太くんが繰り返した。
翔太くんの顔は何かを疑っているようで、不機嫌さを出す。

それもそのはず。
翔太くんとあたしは“婚約者”だから。
翔太くんの場合はあたし以外の女性の名前を口に出してはいけない。
その反対にあたしは翔太くん以外の男性の名前を口に出してはいけない。

あたしは我に返り、慌てて口を拭う。

「えっと…その…あの…」

眉間にシワを寄せる翔太くんに、あたしは焦り出す。

どうしよう!!
どうしよう!!

あたしが慌てて、目を泳がせていると、翔太くんは「ははっ」と笑った。

「そんなに友達が恋しいの?」

「………はいぃ!?」

意味のわからない事を言う翔太くんは、「大丈夫だってー。その子、元気にしてるよ」とか「彼氏つくって、きっと遊んでるよ」などと、笑いながら言う。

“彼氏つくって”とは…。
バレてない?
バレてない!!
自問自答を繰り返す。

「あぁあぁ!!そーなんだよ!!多分彼氏作っちゃってー…!!」

一人で盛り上がっていた。
それに応じて、翔太くんは頷いてくれたり、笑ってくれたり、取り合えず嘘の話しを聞いてくれていた。
ごめんなさい…翔太くん。

「その子って、どんな子?」

「え…?…えーっと…」

どんな子かぁ…。
あたしは遥を思い出す。

闇に溶け込みそうな艶やかな髪、長いまつげを被せた漆黒の瞳、日焼けを知らない肌、何より細身で長身で……。

「………かっこいい…」

そう、かっこいいんだ……。
………………ん?
待てよ……?

「あぁあぁあああ!!!!」

口に出ていた。
“かっこいい”が。
翔太くんの前で…。

大きな声を出したあたしに翔太くんは目を見開く。
あたしは直ぐに弁解した。

「えっとね!!違うの!!かっこいいは…その…ク、クールで…!!!」

「…ぷはっ」

「ははははは」とお腹を抱えて笑う翔太くん。
一体どうしたんだ!?
あたしは、あっけらかんとしていることしか出来ない。

「ごめんごめん」と笑いを止めてあたしを、笑顔で見た。

バ、バレてないみたい…。
あたしは安堵した。

そして翔太くんは何かを思い出したように、パッとひらめく。

「美月、ちょっと待ってて」

そういって、翔太くんはあたしの頭をソッと撫で、その場を立ち上がり、どこかへ行ってしまった。