「美月はさぁ、縁側に座るの、好きだよね」


唐突な疑問にあたしは驚く。
あたしが縁側好きとは…。

「ど、どうして、そう思ったの?」

あたしの言葉に「うーん」と項垂れる、翔太くん。

ギュッ。

ん?
今のは、何?
微かに、いや、確実に聞こえた何かが締め付けられている音。
それに、胸が苦しい事。

ソッと、胸に手を当ててみた。

気のせいだろう。

あたしは胸に当てた手で、胸を撫で下ろす。
そして膝に手を戻した。

未だに「うーん」と項垂れる、隣の翔太くんに、あたしは視線を運ぶ。

ギュッ。

「…!!」

今度こそ、わかった。
この現象は、翔太くんにまつわる事。

容姿が綺麗で、そこはもう、知っているはず。
そんでもって、サラサラとした髪、綺麗な瞳、鍛えられているが細身な身体、長身で長い足、それに膨らみのある…温かい唇。
それも会った時からわかっていた。

だけど今、あたしはそれ以上の事に、揺るがされていた。

テノールの声。
温かい手。
それも、一理ある。

だが。
今一番あたしを揺るがしているのは。


翔太くんの温かい心だ。



翔太くんに抱き締められている時、なんとも言えない温もりに包まれる。

凄く、凄く凄く、嬉しかった。


あたしは翔太くんを見た。
それに気付いたのか、翔太くんはあたしを見て、無邪気に笑った。


この時間が暖かい。

だけど。
ギュッとなるこの胸は、恋愛感情ではない。
ましては、恨みや憎しみでもない。

ただ単に、あたしには勿体無いと思ったまで。

もしも、この、“暖かさ”が無くなったら。
怖くて、恐くて。
あたしは前に進めなくなる。

無力でもいい。
何でもいいから。

あたしはこの“暖かさ”を永遠にしたい。

もう手離したくない。
無くしたくない。


「どうしたの…?」


怖いの。
離れて行くのが。

また、独りになってしまいそうで。

「美月…」



怖いよ。


あたしは、もう、翔太くんの声さえ、耳に入って来なかった。


カラン、カラン。



入って来るのは、鐘の音。
入って来ると言うか、頭の中で響き渡る。

『君と同じ名前だね』

そう、あたしと同じ名前。
水城神社。


「…は…る……」


気付いた時には口にしていた。




彼の名前を。