くすぐったくて、くすぐったくて。

触れる何かに気付いたとき、あたしの血液は沸騰した。

「…っは…はうぅ…」

「はは、面白ーい」

翔太くんの顔はあたしから離れ、太陽の光があたしを照らす。
眩しい。
あたしには、眩し過ぎた。

太陽も、翔太くんの笑顔も。

両肩にある翔太くんの手も離れて、その寂しさに、息を吐く。
身体をゆっくり起こし、縁側に腰を付き、庭を一望する。

あんな花、あったっけ?
あ、鳥が鳴いてる。
スズメかな?

…なんて。
ただ、近くに居る翔太くんを気にしないように、気を紛らわせるために、変な事を無理に思ってみる。

だけど、そんな事は無意味で。

「美月?」

チラッ、と、視界に入る翔太くんの顔。
その顔にドキッとする自分がバカらしい。
だけど、さっき寝込みを襲う(?)行為を取ったあたしはもっとバカらしいと思う。

「美月!!」

「はいっ!!」

突然の大きな声に、ビックリする。
そして目を開く。

「まったく…、どうしたの?」

“どうしたの”と、言うのは…?
どうしてだろうか。
眉間にシワを寄せる翔太くん。
怒ってしまったのだろうか。


…え?なんで怒る?

「…怒ってます?」

「うんうん」

なぜ、怒っているのかわからず、あたしは呆気に取られる。
翔太くんは溜め息を吐き、あたしの隣に腰を下ろす。

サアア、と、風が吹く。
庭の花と、翔太くんの匂いが、あたしの嗅覚を揺るがす。
その心地好さに、目を閉じた。

その時、だった。


花の匂いも察していたあたしの嗅覚が、翔太くんの匂いしか察する事しか出来なくなった。

あたしの嗅覚がおかしくなったんじゃない。
強制的に、その匂いしか、感じることが出来ない状況になっていただけ。

視界が、翔太くんの顔だけしかとらえられなくなり。
嗅覚も、翔太くんしか感じられない。

それに比例するように、聴覚も翔太くんの声、音、しか聞こえなくなる。

微かに感じる唇の違和感。
至近距離の、閉じた翔太くんの瞳。

今頃、気づいた。

視覚も聴覚も嗅覚も。
おかしくなったんじゃない。



口付けをされているから、翔太くんしか感じられなかったんだ…。