朝食を終えて、先程まで閉まっていた窓ガラスが開かれた縁側に、腰を下ろす。
足をぶらぶらと下に流すと、春の風がスッと、あたしの足の間をするりと流れる。
その心地好さに、目を閉じ、手を板敷きに付き、上を向く。

「…はぁ」

さっき、考えていたことは、何だったんだろう。
振り返ってみたら、「変な事だな」と、鼻で笑った。


鳥の鳴き声。
木々のざわめく音。

目を閉じていると、余計に耳が敏感になる。
だけどそれが気持ち良くて。
和やかな気持ちになる。

目を閉じていると、まぶたの向こうは、闇で何も見えないけど、今は違う。
少しだけ、明るくて、暖かみを教えてくれるものだ。

まるで、一面闇の中でさ迷っていたあたしの、救いの手みたいに。


あたしはそのままゆっくりと、板敷きに倒れかかり、仰向けに寝た。
まぁ、一応大久保家なんだけど。
我ながら呆れてしまう。

前髪を春の風が優しく揺らしてくれる。
時々香る、甘い花の匂いが鼻をくすぐる。
“心地好い”。
これが一番当てはまる。

「…はぁ…気持ちぃー…」

このまま寝てしまいたい。
いや、いっそのこと、動かないで、ただじっと…。
そんな時、閉じていたまぶたが暖かみを無くし、薄暗くなった。

「みーづーきっ!!」

ふと聞こえた声に、パッと目を見開く。

「翔太くん…!!」

目の前には逆さまの翔太くんの顔。
その近さに思わず呆れる。
ドキドキする、の前に溜め息が漏れる。
そんなあたしとは裏腹に、翔太くんは愉しそうに笑う。

「……何がそんなに愉しいですか…?」

あたしは目を細め、問い掛ける。
ゆっくりと起き上がろうと、試みる。

が。

ガシッ。
両肩を板敷きに押さえつけられ、身動きの取りづらい状態に陥る。
あたしは翔太くんを、見た。

「何でそんなに不機嫌なの…?」

……。

そんな事を言っている貴方の方が、不機嫌に見えますよ、翔太くん。

あたしは、そんな翔太くんを見て、頬を緩めた。

「…不機嫌でも、なんでもないよ」

「…ん」

下から覗く、翔太くんの顔はとても綺麗で、羨ましい。
近いからかな。
翔太くんの暖かさを感じる。
それに、微かにあたる前髪がくすぐったい。
かかる吐息も、熱くて。


冷静さを保てない、あたしがいた。


「……美月」


あたしの目に、生暖かい何かが、触れた。