その状態から、早、五分が過ぎようとしている。
それなのに一向に変わらない、この状況。
もうそろそろ、あたしの心臓も、“限度”と言うものを迎えようとしていた。
もぞもぞと、翔太くんの顔を見れる位置に来る。

「そろそろ…離して頂きたいのですが」

しれっ、と、言うあたしを見た翔太くんは、つまらなそうに口を尖らせた後、より強く、あたしを抱き締めた。
ぎゅっと締め付けられ、シーツがシワをつける。

「嫌だね」

熱い…。
この状況が。
汗がでる、そんな暑さじゃなくて。
ただただ、火照るあたしの頬、いや顔、あれ?、違う。
正しくは身体全体といった方が良い。
どくん、どくん。
鳴り止まぬ鼓動を伝えないように、自分の胸を抱えた。

あたしの頭に回る翔太くんの大きな手が、無造作に動き出す。
わしゃわしゃと、音を立てかき乱す翔太くん。
とうとう絡まったのか、翔太くんの指にはあたしの髪が絡まる。

「あーあ」

残念そうに小声を漏らす翔太くんに、思わず顔が綻ぶ。
すると翔太くんは絡まった髪を丁寧にほどいていく。
あたしは顔を綻ばせているが、内心、ドキドキしてたまらない。
「誰かに見つかるかも」そんな心配もあった。
だけどあたし達はあくまで“婚約者”。
だからこんな風にイチャついても、誰も変に思わないだろう。
「当たり前だ」これくらいだろうか。
皆はこれを当たり前と述べても、あたしには到底「当たり前だ」とは思えない。
多分、これから先、ずっと。

もし、こんなあたしを翔太くんが受け入れてくれるのであれば。
信じてみよう、って、思うだろう。
過去を引きずり、暗闇の中を朦朧と歩み続けるあたしに、光の手を差し伸べてくれるなら。
あたしはその手を取ろう、と、思うだろう。

例えの、話だが。

「…」

いつ知れず、あたしの顔の赤みはとれ、あたしは無意識に翔太くんの胸で、涙を流していた。


一粒、だけ。




どうしてかは、わからない。

目の前が真っ暗で何も見えないあたし。
ただ、朦朧とする意識の中で、さ迷い続けて。
射し込む、光さえなかった。
音もない。

聞こえたとしても、過去の声達。

あたしはそれが怖くて、翔太くんにすがりついていたんだ。