あれから五分程度。
時は、ゆっくりと。
あたしたちの間には、優しい沈黙が襲っていた。

先程より、力を無くした遥の腕から、そっ、と身体を離した。

離れた身体の空間に、風が通りすぎる。
少し、寂しいなんて、思ったりもして。
風に吹かれたって、熱を引かない頬に手を当ててみた。
確かに熱い、と思った。

あたしは、熱帯びた息を吐き捨て、ここから見える参道と、桜の樹をぼんやりと眺めた。

そういえば、ここの神社って…、と思いつつ、また遥を見た。

「どうか、した?」

遥は、首を傾げて、綺麗な瞳を細める。
あたしは素直に、答えを口に出す。

「…この神社の、名前って?」

「あぁ」と、遥はつまらなそうに、溜め池を吐いてから言った。

「確か…、水城神社かな」

「水城、神社…」


どくん。
あたしの胸は確かに鼓動を動かす。
一気にあたしは不思議な感覚に襲われていた。
だけど、どうだろう。
偶然と真実が入り混じって、この時が夢のように。
現実を忘れてしまう。

「君と同じ名前だね。…漢字は違うと思うけど」

ははっと笑う、遥の顔が、羨ましいほど、眩しくて。
だけど、見るたびにどことなく、切なくて。



あたしの寂しい心の隙間を強調させてくるような。



水城神社。

この名前が偶然ならば。
あたしは何も感じなかっただろう。
だけど、偶然じゃない何かが、あたしを惑わして。

そうだ、きっとそう。

これは、運命なんだ。

そう、信じた。




遥と逢ってから二日目。
あたしの心は、遥の温かさと、春の暖かさで、和らいでいた。

それと見つけた、運命。



あたしの気持ちは“不思議”に染まっていた。