遥の表情なんか見ない。
見たくないのだから。
もし見たら、泣いてしまいそうだったから。
そしたらまた遥に迷惑掛けてしまう。
最期くらい心配させたくない。
笑顔で、いてほしいから。
あたしは顔を上げて笑った。
「何しよっか」
「……そ、うですね」
力なく答えた遥。
少し驚いていたが笑顔で返してくれた。
そしたらあたしの左手を取り、微笑んだ。
「じゃ、行きましょうか」
そう言って遥は石段でもなく、ただ踊り場に向かって歩き出した。
「え…どこに…?」
「言っていたでしょう?」
「…?」
遥はそう言うと足を止め、自分の指であたしの顎を上に上げた。
そして自ら唇を重ねた。
「……思い出作り、しましょう?」
「……あ…ぅん…」
恥ずかしくて上手く言葉が出てこない。
反射的に俯くと遥は満足げに笑っていた。
すると足を動かした。
あたしは繋いだ手を握りしめ遥に着いていく。
どうしてここなのかな?
思い出作りなのに…。
あたしは恥ずかしい気持ちを捨てて、遥に言った。
「…どっ、どうして神社なの…?思い出作りならもっと違う場所の方がっ……」
「いいんです」
「え…?」
「俺は場所にはこだわらない。ただ、美月ちゃんといられればそれでいいんです」
あたしは下を向いた。
あたしの方を向かなかった遥だけど、それで良かったと思う。
だって今あたしは……。
「顔、真っ赤です」
「えっ!!??」
あたしは俯いた顔を勢い良く上げたが、遥はあたしの方を向いていなかった。
なぜ……わかったのだろう?
「……図星、ですか」
「う、うるさぃ…、ばか」
「可愛らしい愛情表現です」
「なっ…!」
あたしの頭はヒートアップして触らなくてもわかるくらい熱くなっていた。
あたしは空いた遥の左手に目をやる。
するとそこにはきらびやかにあたしがあげたブレスレットがあった。
着けてくれてるんだ…。
あたしは無性に嬉しかった。
なんだか、恋人っぽいなーなんて思ってしまう。
……あ、でも。
急に現実に戻される。
今日で遥は消えちゃうんだった。
この時はこれで…。
あたしは片手で自分の胸を掴んだ。
苦しくなる気持ちを抑え、今流れているこの時を大事にしようと考えた。