近頃、ううん。
もう来ないと思ってた場所に向かっているあたし。
胸はうるさい程に高鳴っていた。
でもきっとこの高鳴りは、不安とか、悲しみが詰まってると思う。
「…そうか」
ポツリと呟いた場所は海が一望できる窪みの空いたガードレール。
ここは遥との思い出の一つ。
そうか。
もう、水城神社に遥目当てで来ることはないんだ。
今日が最後なんだ。
神社の踊り場で遥があたしを待っていることは。
今日で最後。
今日で……。
本当に………。
ポタリと流れ落ちる雫。
あたしはハッとしてそれを拭った。
泣いちゃ駄目だ。
泣いたら、駄目なんだ。
あたしは自分に言い聞かせてガードレール沿いを歩いた。
しばらくすると木々のトンネルにぶつかる。
ざわざわと木々がざわめく。
木と木の間から差し込む光が目を瞬かせた。
瞼がほんのり暖かくなる。
濡れたまつげを乾かしながらあたしは唇を噛んだ。
ようやく石段に着く。
「……」
初めてこの石段に辿り着いた時は正直、不思議な気持ちに包まれてた。
半分以上登れば、胸が苦しくなって雅也の記憶が蘇ったっけ。
この後に起こる出逢いなんか予想すらしていなかった。
あたしは石段を登り始めた。
扇ぐ生暖かい風があたしの背中を押す。
まるで「頑張れ」と応援されてるかのように。
最後の一段を丁寧に足を掛ける。
そして一気に身体を前に突き出した。
そこには何も変わらない真っ赤な鳥居が待ち構えていて、参道の先にあるお賽銭箱と踊り場があたしを迎える。
そして。
夢に出てきたあの人。
「美月ちゃん、こんにちは」
遥があたしを待つ。
あたしは走った。
笑顔を浮かべた遥の元へ。
「遥………!!」
あなたは本当に夢の中に来ましたか?
あれは本当の夢でしたか?
夢ならばあなたは消えませんか?
あの夢の中に出てきたのがあなた自信であれば、消えてしまうと言ったのは事実なのですか?
あたしは遥を抱き締めた。
遥もあたしを抱き締めた。
こんな光景は本当に今日で終わりなのだろうか。
自分で「思い出作り」と言っておきながら、本当に思い出なんて作れるのだろうか。
「……遥…本当なの…?」
「……え?」
「本当に……消えちゃうの…?」
「いいえ」って言葉が聞きたかった。
だけどやっぱり現実は現実。
「はい……」
あたしは唇を噛み締めながら遥にしがりついた。