抱き寄せられた身体が少しずつ離れて、あたしと遥を唇が繋いだ。
じわりじわりと伝わる熱。
優しく口付けが交わされた後あたしは遥を目を細めて見つめた。

「…ずっと、一緒にいたい」

ただこの言葉しか出てこなかった。
でも、目の前に映る遥の表情はあまり笑っていなかった。
むしろ、悲しそうな表情であたしを見つめていた。

「……それは、できない…」

あたしは唇を噛んでぐっと堪えて、遥の言葉に反論した。

「…どうして?」

「それは……」

言葉を詰まらせた遥。
あたしは涙の止まった目でしっかりと遥を見据える。

もう、遥に何かを断られても後退りなんてできない。
したくない。
だってもう二度と、後悔なんてしたくないのだから。

「……言って?」

「……」

「遥」

「……っ…」

遥は珍しく口を閉ざし、俯いていた。
あたしはそんな遥の口が開くのをただ待った。

静寂としたこの真っ白い空間。
音も無く、まるであたしたちだけの空間と化している。

遥が顔を上げたら、苦しげな表情が目に見える。
するとゆっくりと自らの手を、あたしに見せてきた。

目が、離せなかった。


「…なに、これ…」


あたしは自分の目を疑った。
嘘だと、思った。
だって、現実的に、論理的におかしいのだから。
普通の人間なら有り得ないことだ。
そう。
普通の、人間なら。

「……遥は…何者なの…?」

眉間にシワを寄せながらあたしはその手から視線を外し、遥の目を見た。
嫌な汗が背筋をなぞる。
妙に速まる鼓動。
それがあたしに恐怖を与えた。

「……俺はね」

耳を塞ぎたかった。
でも、決めたんだから。
もう、後悔だけはしたくないって。
向き合わなきゃ。

遥自身と。


「俺はね……あの日事故にあった時に飛び散った魂の記憶……想いの断片なんだ」


辻褄があった。

あたしは聞いたことがある。
病気、正常死などで亡くなった人は生まれ変わり、事故、殺害、自殺で亡くなった人は二度と生まれ変わらない、と。

だから正直、驚いていた。

なぜ、あの人がそっくりそのまま今ここにいるのか。
どうしてまた、あたしの前に現れたのか。

全部、魂の断片だったんだ。


「…そっか」

あたしは笑うことしかできない。
ううん。
遥に悲しい顔をしてほしくなかったのかもしれない。
でも不思議と重たい何かが飛んでいった気がした。