どうかしている。

忘れたいのに忘れたくない。
どうしても治まらないモヤモヤした気持ち。
イライラして、同時に悲しくなる。


『お前は今までこれを自分の中で溜めてたのか……?』


もう、一人で抱えるのには重すぎる。
だから一人で抱えるのはもう嫌だった。
溜めるのは良くないって。
でももう………溜められないよ。



「……忘れたい……よ…っ」



泣き崩れるあたしを翔太くんは抱き締めた。
あたしには聞こえなかったけれど翔太くんは呟いた。


「……俺が忘れさせてやれたら…」




―――とにかく、忘れたかった。
どんな手段でもいい。
どんな手段でもいいから。

あたしの記憶から遥が消えたら。
今までの偽りの行いも、はるの存在自体も。
全部。

忘れられれば。
忘れられればいいのに。

あたしの記憶から遥が消えることはきっとないってわかっているのに。

忘れたいと願うだけ。

こんな想い、最初から始めなければ。
遥と出逢わなければ。

最初からこんな想いしなくてよかったのかもしれない。

悔しいよ。
苦しいよ。
痛いよ。
辛いよ。

大好きだよ……。
好きすぎるよ……。

好きすぎたからこんなに辛くなったのかな。
どうして人間は恋をすると弱くなるのかな。
強くなるにはどうしたらいいのかな。
強くなる方法が知りたいよ。


「…うっ…うわぁぁん…」


喉が熱くなる。
目が痛くなる。
こめかみがジリジリと痛くなる。
涙が止まらない。
胸が苦しい。

ただ手を伸ばして暖かい光が欲しかった。
あたしを取り巻く黒い影を捨てて、忘れて、消え去って。
暖かい光だけがあたしの傍にいて………。





『美月ちゃん』





「……っ…」




あの優しくて、温かくて、あたしの大好きな笑顔であたしの名前を呼ぶ。

頭の中で映し出されるその笑顔はあたしにとって光だった。
ずっと心に秘めていたい。

大好きだから。


「……うっ…ぅぅ…」


忘れられない。
この気持ちが苦しいよ。

忘れようとしたってまた遥の笑顔が声が蘇ってあたしを呑み込む。

忘れさせようとしてくれない。
忘れさせてくれない。









忘れられたら、楽になれるのに……。










部屋の中で翔太抱き締められながら泣き続けた。