「翔太くん」

あたしは障子の前で翔太くんを呼んだ。
だけど、返事はない。
あたしは仕方なく、無言で翔太くんの部屋に入り込んだ。

「っ」

足が止まった。
畳の擦れる音だけが虚しく響いて、あたしと椅子に座る翔太くんの視線は絡まった。
翔太くんの目は、なんとなく怒っている様だった。
あたしはさっきから震える唇を開けた。

「……翔太…くん……あの――」

「入れよ」

「え……」

「そこ、閉めて」

あたしは言われたように障子を閉めて、畳の上に立った。
翔太くんは変わらず冷たい目であたしを見つめる。
あたしは緊張する中身を強張らせた。

「……あの…」

「話せ」

「え……」

低い声に身体が震える。

「全部」

「……あ、あの……」

「あいつと何かあったんだろ」

「っ」

その質問に顔が歪んだ。
心臓がドクドクと心拍数を増す。
頭がピリピリして口が動かない。

「……翔太…くんには……関係ない…こと、だから……」

「ある」

「……本当に……」



『……ごめん、美月ちゃん』



「っ……」



あたしの頭に流れた一言。
それが一瞬にして胸の痛みに変わっていく。
同時に涙腺が緩む。
あたしは必死に震える唇を噛みしめ、涙を堪えた。

「俺に本当に関係ないことだったら、尚更だ」

「……だからっ…もう…」

「言え」

「……ほんっ……本当に…」

「言えよ」

「……お願いっだから…っ…」

とうとう溢れだした涙。
もう隠す術もない。
止めどなく流れる。

翔太くんは椅子から立ち、ソッとあたしを抱き締めた。

「……うっ…ぅぅ…」

「…話せよ…どうせ、アイツのことなんだろ……」

冷たい言い方だけれど今のあたしには必要不可欠なものだった。
翔太くんの指があたしの髪に絡まり、優しく撫でてくれる。

「知ってた……お前が部屋で一人、泣いてたこと」

「……んっぅぅ…っ」

「…絶対、アイツのことだってわかった……」

翔太くんの声が耳元に響き渡る。
掠れている優しい声が涙を増やした。

「……ゆっくりでいい、泣きたいだけ泣い―――」

「ごめんって……言われた…」

「え……」

「……フラれちゃったのっ…」

苦しかった。
自分で言いたくなかった。
でも。

『溜めるのはよくないからね』

って、達大さんが言ったから、言えたのかもしれない。
もうあたしにはそれしか手段がなかったから。