「よーし」
玄関の扉を背に一人で気合いをいれた。
熱くなる乙女心。
だけどやっぱり外は寒くて闘士はぶっ飛んでいく。
少し、気合い入れすぎたのかな。
ヒラヒラのワンピースにタイツとブーツ。
上にはモコモコのコートを着て、斜めがけのバックを身に付けているあたし。
まるで「彼氏とデートなの!きゃはっ♪」みたいな乙女の格好だ。
…まだ、彼氏もいないし、しかも好きな人にちゃんと想いも伝えていないのに張り切っちゃってる女ですよー、あたしは。
重たい足取りで歩き出した。
歩く度、風が入り込む。
長い髪が靡いて寒い。
そろそろ髪を切りたいなーなんて、考えてみた。
だけど似合わないと感じて溜め息を吐いた。
さて、遥にどうやって聞こう?
普通に聞いてみるか、それとも遠回しに聞いてみるか。
「うーん…」
海を見渡せるガードレール付近で立ち止まった。
当たり前のように浜辺には人はいなかった。
潮風はなく、冬の冷たい風が吹き上がる。
スカートの中に入り込む風が冷たくて、震え上がった。
そう言えば。
ここ、遥と海を眺めたっけ。
あたしが夏希さんに頼まれた物を買って遥に持たせちゃって。
いずれかはここも、今日見たこの景色も、遥と見たあの景色も。
全部、思い出になるのかな。
あたしの記憶に堆積していく断片になっていくのかな。
ちょっと、寂しい気もするけどそれが一般的現象に過ぎないのだ。
ふと、ガードレールに当てていた手を見た。
手には白い粉がついていた。
ガードレールに付着している粉がその形のままついている。
これも、思い出になっていくんだね。
あたしは思った。
「…はあ」
手についた粉を手で叩くと、あたしはバックの中から鏡を出した。
本当に彼氏とデートみたい。
あたしは鏡に映る見慣れた自分を見て呆れる。
唇にはピンクのリップグロスが艶やかに光っていた。
18にもなってグロスだけだなんて少し恥ずかしい。
だけどあたしはあまり化粧は好きではない。
「ふふふっ」
早く遥に会いたくて思わず笑いが込み上げてきた。
遥は、オシャレしたあたしを見てどうおもうのだろうか。
楽しみだな。
早く。
早く、遥に会いたい。
あたしは鏡をしまい、水城神社へ歩き出した。