「これ、美味しいですね」
「だろ!?俺も好きなんだよなー、コレ」
甘い和菓子を口に頬張る遥と翔太。
今時、“スイーツ男子”という言葉を耳にするが、この二人が良い例だ。
なぜか二人は意気投合している。
遥はともかく、翔太は楽しそうだった。
コトンと、強化ガラスのコップのお茶を飲み干した翔太は遥を見つめた。
「どうかしました…?」
「いや、綺麗な顔してんなーって」
「翔太くんには負けます…」
「なっ」
途端照れだした翔太。
それを見ている遥。
「あはは(なんか美月ちゃんに似てて面白ーい)」
相変わらずマイペースな遥。
それで翔太は遥に少しからかわれ赤くなる。
すると遥はお皿を置き、スヤスヤと一定のリズムを保った寝息を立てる美月を愛しく見つめ、額を触った。
「熱…下がってきたみたいだ」
翔太は遥の傍に近寄り「本当か?」と身を乗り出して美月の額を触った。
「良かった…」
「翔太くんは美月が大好きなんですね」
そう言われた翔太は少しだけ切なくなった。
いくら遥だからといって心を開いた訳でもない。
でも正直翔太は、遥には敵わないと思うのだ。
その謙虚さと繊細さと冷静さと穏和な遥に美月を渡す事が正解だと。
だから。
「…過去形、だけどな」
不器用に、だけど正しい答えを述べる。
もう今、美月は遥に焦がれていることは嫌って程知っているんだ。
そんな翔太を見て遥は美しく控えめに微笑んだ。
美月の頬を撫でながら。
「…翔太くん、俺から頼みがあるんだ」
「頼み……?」
「うん…」
少し合間が空き、ドクン、ドクンと緊張が漂う翔太。
じわじわと身体が強張りピリピリとする。
まだ昼間の冬の空が少し陰る。
静かな空気が不安を拡大する。
少し、聞きたくないなんて考えてみるが聞かなければ誰が聞く?と思考を巡らせる翔太。
ゴクリ、喉を鳴らした頃、遥は冷静を保ったまま翔太に笑いかけた。
「……君が美月を笑顔にしてやってくれないかな…?」
「……は…?」
翔太は目を見開いた。
なぜだかわからない翔太はまた遥に聞き返す。
「意味がわかんねぇんだけど……」
「…そのままだよ」
一瞬にして悲しい顔をした遥に翔太は何も言うことができなかった。