「こんなところに、こんな家があったなんて…」

遥の家に初めて入る翔太くんはその広さと、造りに圧倒する。
遥はお姫様抱っこをするあたしを愛らしく眺め、翔太くんに視線を戻し、嫌味っぽく毒を吐く。

「ここで美月ちゃんとヤっちゃいました♪」

「……黙れ、変態」

「誉め言葉として、有り難く頂戴致します」

「さ、どうぞ」と遥は翔太くんを部屋に招き入れると手早く布団を敷き、あたしを寝かせた。
もう意識を夢の中に持っていっているあたしは静かに寝ているだけしかできなかった。

翔太くんと遥は近くのテーブルの横に腰掛けた。
翔太くんはダウンてマフラーを外しながら寝てるあたしを見つめた。

「…こうして、静かに寝ていれば可愛いのに」

「普段でも充分可愛いじゃないですか」

「ああ、たぶん俺とあんたに対する接し方が違うんだよ」

「愛の深さですか」

「そうは言ってねぇだろっ」

遥はまたニコニコ笑う。
そんな遥の爽やかな笑顔に少しだけ翔太くんも魅了される。
男女にも通じる妖艶で控えめで、だけど爽やかな笑顔。
チラリと見える鎖骨と白い肌。
ストレートの漆黒の髪と綺麗な瞳にも圧倒されるのだ。
時にごくりと喉を鳴らす仕草も色っぽさを放出する。

少し動揺する翔太くんは咳払いをすると袋の中から薬とお茶を出した。

「なんですか?それは」

「美月に飲ませる薬とお茶だよ」

「薬…?」

遥は少しキョトンとしている。
目が揺らいで翔太くんから視線を外さなかった。

「熱、出してんだよ。こいつ」

「お熱ですか…。そりゃあ大変。インフルエンザですか?」

「いや、医者に診てもらったんだが。ただの知恵熱らしい」

「何か、考えすぎたのかな?」

「あんたの事だろ、きっと」

そういうと遥は少し下を向き、照れ臭そうに笑っていた。

「だけど、寝ちゃったから薬を飲ませらんねぇな」

すると遥は手を出した。

「何粒ですか?貸してください」

「?」

「早く」

「あ、あぁ…」

遥はカプセル一個と、小さい錠剤を二個手に取り、お茶を取った。
ペットボトルのお茶のキャップを外した。

そして。
薬たちを自分の口の中に入れた。
そしてお茶も口に含む。

「ちょっ…!!おまえっ!!」

遥は唇に人差し指を立てた。
ゆっくりあたしの近くに寄ると頬を優しく撫で、唇を重ねた。


ゆっくり、ゆっくり、薬を流し込んだ。