「ん…」

朦朧とする意識の中、あたしは冷たい空気を吸う。
目の前には机。
あたしは机に頭を伏せて寝ていたらしい。
場所も水城神社ではなく大久保家。

「…あれ……あたし…」

冷たい机に触り身震いする。
そんな時、ふと思い出す。

水城神社にいたあたしは、遥と喋り暗くなったから無理矢理帰らされたんだ。

はぁ、と溜め息をつくと障子の隙間から射し込む光を見つけた。
四つん這いでその障子を開けると眩しいくらい明るく、驚くくらい大きな月があった。

「綺麗…」

零れ落ちそうな美しい月。
“美”しい“月”なんて。
これじゃああたしの名前じゃない。

「あはは」

我ながら呆れて笑ってしまう。
これはあたしの名前の由来。
元となったもの。

だけどあたしはちっとも“美月”と言う名が合ってない。
この月のように眩しい訳でもないし美しくもない。

誰かを傷付ける事しかできないし、支える事すらできないただの臆病者。

なのに。


『君は相手を傷つけてしまう程バカじゃない』


遥はいつもソレを覆す。

マイペースで変態だけど、時々良いことを言う。
言い方は悪いけど、実際そうなのだ。
あたしに温もりと優しさと光をくれる。

恋の楽しさや、愛の大事さがどんどん伝わって、流れるようにあたしの中を駆け巡る。

だからだろうか。

遥が気になって仕方がなくなった。
今、どこで何をしているの?
何をどう思っているの?
誰を想っているの?

いつからかあたしは今までにない独占欲に呑み込まれていた。



「…遥」


こんなにも愛しいのに。
いつもあたしは遥に素直に気持ちをぶつけていない。

それに遥の気持ちだって明白なままで…。


「会いたくなっちゃうな……」


悔しいくらいに会いたくなる気持ちに微かに笑った。





―――貴方は今この月を見ていますか?