「……バカ…」

「ん?なに?不器用な愛情表現?」

「ちっ、違うってば!!」

顔を一気に赤らめるあたしを冷やかすように遥は優しい意地悪を仕掛けてくる。
あたしはそんな顔を隠すように遥に背を向け、俯き爪先を見ていた。
すると。

「…ぁ」

靴の爪先に降り注ぐ白い綿。
雪だった。
先程まで粉雪程度だったそれは大きさを増し、空から舞い落ちる。
顔を上げ空を見上げると、眩しい白い空から落ちてくる雪と冷気が目に滲みた。


「降ってきましたね」

「うん…って、バカ!!」

「まだ引きずってると?」

「う、うるさい!!」


あたしと遥の熾烈な争いは幕を閉じないままだった。

「まあ、いいじゃないですか」

後ろからあたしに絡み付くように腕を伸ばしてきた遥。
少し胸がドクンと跳ねてその温もりをゆっくり自分に取り込む。

「耳、真っ赤ですよー」

「う、うるさいバ―――」

「バカ、ですか?」

「~~っ!!」

あたしに当たる冷たい雪でも遥から伝わる甘い熱には勝てない。

純白の雪は降りしきり、地面に落ち溶けていき積もらないけど。
あたしの真っ白な、純白な心にそれは遥との記憶を紡ぐように堆積していく。

雪降る冬の二人の想い出が。


「…ねぇ、美月ちゃん」

「なに?」


小さくなった遥の声がボソッと耳元に響く。
その小ささに耳を敏感にした。

「俺ね最近思うんだ」

「うん…」

「時間…時間がね物足りないって、……老化かな?」

「あはは、早いよ」


他愛のない会話が度々心をぐらりと揺らす。
だけど、どことなく危うい。
遥は自分の気持ちに偽りを生じているのか。
それともあたしの心が不安定にぶらついているのか。

―――やめよう。

こうやって考えると、なんか今まで自分に言い聞かせてきたことが矛盾してしまう。


「美月ちゃん?」


熱帯びた遥の吐息と共に聞こえた疑問系の囁き。
答えたり、聞き返したりしたいのに。
上手く口が動かない。
……いや、正しくは動かさなかった。
理由はわからない。


「……」


強く抱き締めた遥の腕。
確かに在る遥の身体と温もりを感じながら思った。




―――時間よ、止まれ。




叶わない事を願ったあたしをどうか許してください。
見捨てないでください。

―――だから。





あたしたちに美しい未来をください……。