―――なんでかな。
「…相手の気持ちもわからないくらい」
―――言葉が…言葉がどんどん出てくる。
「自分はバカで…」
「美月ちゃん」
「バカで……」
「美月ちゃん」
『…またあいつのとこ、行くんか?』
「相手を傷つけてしまうんだ…!!!」
「美月っ……!!!!」
遥の怒鳴り声があたしの頭を真っ白にした。
そして身体がビリビリと麻痺して息が荒くなる。
背中に回された腕が一気に力が入ってあたしを締め付けていた。
「……一体、何がどうしたんだい…?」
「…え…あ、あたし…」
頭がぐちゃぐちゃになって、熱くなって、気が付けば自分でも何を言っているのかわからなかった。
だけど一つ確信していること、それは。
頭の中で、今にも泣きそうな翔太くんの声がしたこと。
「翔太くんにでもなんか言われた?」
「翔太くんに……?」
少しあたしは黙り込んだ。
何も言わず、遥の胸に顔を埋めるだけ。
そんなあたしに遥はあたしの頭を優しく撫でながらか凛々しい声で呟いた。
「君は相手を傷つけてしまう程バカじゃない」
透き通る声があたしの中に流れ込んだ。
「で、でも…遥はいつもあたしをバカ扱いしてて……」
消えかかるように呟くと頭上からクスクスと笑い声が聞こえ、あたしは反射的に遥を見上げた。
「くっあははは」
「……な、何よ…」
不満げに遥を睨む。
「ごめんごめん、つい」
「……何が可笑しいのよ」
「だから美月ちゃんが……くっ」
また遥は笑いだした。
ただあたしは苛立ちが募るばかりだった。
あたしは遥の腕からガバッと抜けて俯き目を固く瞑る。
手には拳が震えていた。
「もう、いい加減に―――」
「違うよ美月ちゃん」
余りにも優しい声があたしを揺らす。
静かに顔を上げ、まるで愛しい人を宥める優しい笑顔であたしを見つめていた。
「…喜怒哀楽を素で俺にぶつけてくれる美月ちゃんに対しての不器用な愛情表現なんだよ」
空気が一変する。
なんでかな。
心が、身体が、じんわり温かくなっていく。
「愛情…表現?」
「俺特有のね」
少し頬を赤く染めて恥ずかしそうに笑う遥をあたしは不思議に思った。
だけど、可笑しいとは思わなかった。
むしろ、嬉しかったのかもしれない。
バカはバカでも優しい“バカ”なんだって。
そう思えた。