「そういえばさ、遥」
あたし達は踊り場に座る。
視野に広がる木々を眺めながら。
そして当然のように応答した。
「ん?なに?」
あたしは視線を遥に向けず、空に近い木々を見つめる。
「水城神社の木ってさ、不思議だよね」
不思議。
あるいは奇妙。
なぜなら、春には桜が咲き、夏には青く繁り、秋には紅葉といちょうがなる。
少し、いやかなりあたし的にその秘密を解明したいと考えていた。
だからこの神社にいる遥に聞いてみたいと思っていたのだ。
だが。
「はい、不思議ですね」
ただそれだけだった。
遥に目をやると遥は空を眺めて眩しそうに目を細めていた。
「なんでこんなにも不思議なの?」
思わず聞き返す。
だけど遥はクスッと笑い、あたしに視線を向けた。
「俺はこの神社のことはわからないよ」
あたしの頭には疑問が生まれた。
遥はこの神社のことを知らない?
ならどうして遥はいつも水城神社にいるのだろう。
辻褄が合わない。
「遥、じゃあさなんで―――」
すると遥はあたしの声を隠すかのように唇であたしの口を塞いだ。
「直にわかるよ」
「…?」
意味がわからなかった。
最近遥は意味不明なことを口にする。
あたしはそれについて口出しするつもりはないけれど。
なんだか、遥があたしに隠していることがあるなら素直に言って欲しかった。
さらけ出して欲しかった。
もし、隠していることが苦しいことや悲しいことなら尚更。
聞きたいんだ。
あたしは。
「…隠さないで、教えて?」
「…っ…」
あたしは遥の腕を掴み、遥を見上げた。
少し驚いた表情をした遥は優しい笑みを浮かべ、あたしの頬に手を添える。
「春になったら、教えるよ」
「春に…」
「そうだよ」
「……」
春に。
今はまだ、1月に入った頃。
春までには3ヶ月はある。
春が恋しくなった。
春になったはわかる。
期待で胸を踊らせたあたしは笑顔で「わかった」と遥に告げる。
馬鹿みたいにあたしは子供のようにはしゃいでいた。
すると一瞬、頬にあったはずの遥の手がなくなった気がしたんだ。
「どうかした?」
笑顔で問い掛ける遥に対してあたしは笑顔を崩さないように「なんでもない」と明るく振る舞った。