「―――君は無力な人間なんかじゃない」

「………っ」


遥はあたしの両頬を両手で包み込んだ。

どうして。
どうして、なんで。

凛とした遥の目。
あたしはただ吸い込まれる。

「美月ちゃんの居場所はあるよ。暖かい家族の元、優しい友達だって、それに………俺もいる」

「…」


これも。


「存在理由なんか初めからないんだよ」



なぜ、あたしが思ったことを知っているの?



ビクン。
身体の奥底が跳ねた。

存在理由がない。

それはあたしは存在する意味がないと言うこと。
怖くなった。

だけど遥は微笑み、あたしの頬に唇を落とした。


「…存在する…美月ちゃんがこの世にいるって事に理由なんかいらない。真っ白な紙に色を載せていくように、自分自身が理由をつけていくんだよ」

「……」

「だから…―――」



遥は唇に優しく唇を重ねる。




「…自分を信じて…?」

「……うん」


なんでだろう。
逢ってなかった分、遥を想っている自分が弱っていた。
何かが離れてしまいそうで、何かを手離してしまいそうになる。


「言ったでしょう?」


遥が優しい顔をした。


「美月を苦しめるもの、俺にも頂戴って」

「え…」

「一人で抱え込むな。君は一人じゃないんだよ?」

「遥…」



あたしは遥をきつく抱き締めた。
そして抱え込む闇。
あたしを覆う不安と情け。
全てを狂ったように叫んだ。



「あたし…、この数日間で自分の心に余裕を持てなくって、早く遥に逢いたいってずっと思ってた…!!だけど、実際“逢いたい”って言葉に逃げてて正直逢うのが怖かった。何かが…何かが離れてしまう、消えてしまうって…。あたしがいるから大事な人を傷付けて消してしまいそうで……。心と身体が何かに怯えて…」


「………大丈夫だよ」


あたしは遥の胸の中に顔を埋める。


「……離れないで…消えないで…」


震えた声で必死に言う。


「…傍にいて…離さないで…」


「…美月ちゃん」


「…おねがい…」


苦しかった。
喉の奥がヒクヒクして。

あたしはわかってしまったんだ。
よく見る夢の中で、まるで予告のように消え行く人を。