「…はっ、ん…はぁはぁ」


あたしは冬の夜道を駆け回る。
街灯に照らされつつも前しか見ていないあたしは無我夢中にただ水城神社を目指していた。
肌を刺すような冷気と粉雪が目に滲みる。


早くしなきゃ、クリスマスイヴが終わってしまう。


あたしはシルバーの袋を手に持ちながらただひたすら走っていた。
足がだんだんゆっくりになってきた頃、あたしは石段の下にいた。


「…はぁ、はぁ」


呼吸を整える。
走ったせいだろう。
心拍数が多く、いつもより胸が苦しかった。
手も冷たいからだろう。
小刻みに震えていた。


きっと、走ったせいでもない。
手も冷たいからじゃない。


遥に会えることが嬉しくて緊張しているんだ。


「大丈夫…」


『…行ってこい。クリスマスイヴが終わってしまう前に』


翔太くんだって応援してくれているんだから。
あたしは石段と逆の、ガードレールの方を向く。
クリスマスのイルミネーションが綺麗に輝いて、まるで、あたしを応援しているように見えてしまった。


「……」


あたしは石段の方を向き、石段に足を一歩踏み出した。


ドクン。


整い終わったはずの胸が、高鳴った。
途端、あたしの遥に対して会いたいと思う気持ちが強くなり、足は止まることなく石段を駆け上がった。



鳥居が見えた直後、あたしは堪えていたものを吐き出した。







「遥っ……!!!!」








あたしの声は十分に響き渡った。







「…美月…ちゃん」



参道で立ち尽くし空を見上げていた遥と視線が絡まる。
遥は少々驚いた顔をしていた。

ゆっくり遥に近付いた。
遥もあたしにゆっくり近付く。

あと数メートルとなったところで遥が早足をしてあたしを抱き締めた。


「…逢いたかった」


この寒さとは真逆に遥の暖かそうな着物の胸は、あたしの知っていた特別な温もりだった。
遥の匂いがした瞬間、あたしの瞼から逢えなかった間に熟された遥への想いが詰まった熱い涙が溢れ出た。



「…君の温もりを待っていたよ、美月…」




逢えない分逢ったとき、嬉しくなる。
逢えない分逢ったとき、涙が止まらなくなる。
逢えない分逢ったとき、もう離したくないって独占欲が強くなる。




もっと、好きになれるって今確かに思えた気がするよ。