「それで、何買ったの?」
「べ、別に何でもいいじゃん…」
「ふーん」
「…」
あれからあたしは、トイレに行き顔を洗ってお母さんと待ち合わせをした一階のフロアに行った。
遅いだの言われたが、あたしは何も言い返さなかった。
そして泣き顔を見られずに、今に至る。
車の中で流れる、母が好きな曲が今のあたしを元気付けた。
“大丈夫”だとか“貴方の笑顔が一番好き”だとか“貴方の傍にいつもいたい”だとか。
あたしを慰める言葉や遥に対して思っている事。
少し心の中に暖かさが染み込む。
だけどまだ完全だとは言い切れない。
完全なるその先は―――遥の傍に居られる唯一の温もりだから。
―――…
冬の夜空が星を輝かせる。
窓を開け縁側に腰掛けるあたし。
パジャマの上にフリースを羽織り、空を眺めた。
あたしはいつまでこうして一人で夜空を見ているのだろう。
まだ冬に遥と二人で夜空を見てない。
踊り場で二人、手を繋ぎながら木々に守られて。
それじゃあ、美しく見えるこの月も、美しく見えない。
視界が歪んでぼやけてしまう。
そう、また今も。
ポタリ。
手の甲に生暖かい物が落ちる。
一粒、また一粒。
止まることのない雫と、歪んで見えない眩しい月。
なんて切ないんだろうか。
『会いに行ってね』
手の中の小瓶があたしに呼び掛ける。
何度も、何度も。
小瓶の中の小さな四つ葉のクローバーがあたしを見つめているようだった。
あたしは泣きながらも小瓶を胸にあて、頷く。
そして涙を拭き、決意を交わす。
負けない。
翔太くんになんか負けない。
あたしの弱い心にも。
涙にも。
縛られない。
翔太くんにも。
弱い、あたし自身にも。
あたしは月明かりの光を十分に孕んだ瞳で小瓶のなかの朽ちる事なく立派に色を保つクローバーを見つめた。