「わぁ…キレー!!」
車の窓から見える青い海。
太陽の光を浴びてキラキラと輝きを放つ。
春の温かい風と、潮風があたしの長い髪をなびかせる。
「美月、そんなに頭出したら危ないでしょ!」
「はいはい」
助手席に座ってるお母さんが後ろの席に座るあたしに説教する。
そんなお母さんの説教を慣れたようにかわし、嫌々頭を引っ込めて、窓を閉める。
窓越しでも綺麗に見える青い海。
私は好奇心に身を包み、目を光らせていた。
初めて、この町に来た。
あたし、成瀬美月。
高校三年生。
ある理由でこの町に引っ越してきた。
だから今のあたしは今までに写真やテレビでしか見たことない景色に感動している。
「せっかくだから、海に出てみようか」
運転席のお父さんがポツリと呟いた。
そんなお父さんにお母さんは「お父さん!」と、運転中のお父さんの肩を叩く。
「冗談だよ」と笑って返すお父さん。
あたしはバレないようにそっと溜め息をつくと、窓縁にひじをつき、頬杖をした。
見つめる先は青い海―――じゃなくて、浜で楽しそうに笑顔を見せる、恋人達。
その光景に目を細めた。
少しイラッとした。
ムカつくんじゃない。
ただ、単純に、羨ましかっただけ。
わずかに揺れる車の振動が心地よく感じる。
まるで、お母さんにあやされる、赤ちゃんみたいに。
あたしはふと我に返る。
こらっ、またそんなこと思い出しちゃって。
自分で自分に言い聞かせてみる。
あたしは頭をくしゃくしゃにかいた。
そんな光景にいち早く気がついたのは―――お母さんだった。
「まったく…、そんなに嫌なの?暗い顔、しちゃって…。大久保さんの息子さんに――」
「あぁ、はいはい。その話は聞き飽きました」
お母さんの言葉に被せるように言葉を載せる。
さっきっから、“大久保さんの息子さん”ばっかりで。
ほんと、やんなっちゃう。
あたしは認めてないんだから。
あんなこと…。