しかしここで退くのは男子の恥、負けを承知で挑んでやろうと私は決心を決めた。さぞかしあの時の私は勇敢に見えただろう。

が、沈黙を破ったのは私の吠えではなく、男の大きな笑い声であった。

「ハッハッハッハ!」

 わざとらしい馬鹿笑いに私は呆気に取られた。

 男はさらに言葉を続ける。

「よせよせ、そんなに構えるなよ。別に俺はわざわざ喧嘩を売りに来たわけではないし、新聞を売りつけるために声を掛けたわけでもないぞ?」

 よく言うでは…………は?……じゃぁ何の用?


「俺は遠藤、遠藤将治だ。以後よろしく。」


 男は右手を差し出した。