「なに、西口。こいつは怪しい奴ではないぞ。少しばかり人見知りなだけで話せば面白い奴だ」

「いや、私が彼に問いたいのは」

「下着のプロフェッショナル、だろ?」

「無論そのことだ」

 磯部くんが鼻で笑った。しかし遠藤の説明は止まらない。

「磯部はな、その称号の通り下着、特に女性下着の道を極めて来た男だ」

「特にってなんだ。僕は男性用の下着に手を出した覚えはないぞ」

 初めて聞く磯部くんの言葉はあまりにも「初めて」には相応しくなかった。

「悪い悪い。でもって、こいつの日常はブラジャーとパンティーで溢れかえっているんだ。例えば放課後にはあらゆる女性のパンチラチャンスを狙って街を練り歩き、帰ればランジェリーショップのカタログで新作をチェックする。日曜は近所のデパートのパンティー売り場に三時間張り付き——」

 この後遠藤の口から語られる磯部くんの偉業はやや犯罪チックな香りがするのでここに記すのはやめておこうと思う。話を要約すれば、磯部くんは下着に関する変態紳士、いや変態侯爵であるということだった。

 遠藤が話している間磯部くんは終始にやにやしていた。まさしく変態侯爵と呼ぶべき存在であったことを読者の諸君には理解しておいてほしい。