恋想曲 ~永遠の恋人へ~

遼ちゃんと心だけじゃなく体も結ばれる。


ずっと心の奥で望んでいたこと…。




遼ちゃんの温もりを感じた時、


いつももっと遼ちゃんに触れたい、

遼ちゃんの奥に触れたいって思ってた…。




その願いが今…


叶おうとしてるんだ……。




なのに、私って本当にどうしようもない。


遼ちゃんのシャツのボタンに触れた手が、緊張と恥ずかしさで動けなくなった。




「こわい…?」


遼ちゃんが私の手を握り、顔を覗き込んだ。



「こわくない…。嬉しいよ。ただ…恥ずかしくて…」


遼ちゃんは赤い私の顔に優しく微笑み、

そっと抱きしめてくれた。



「葵、かわいい。すげーかわいい!」


「かわいくないよ!」


「かわいいよ。世界で一番かわいい!」




私がさらに顔を赤くすると、

遼ちゃんは腕の中の私にキスをした。




そして、懐かしい眼差しで言った。









「葵が小さい頃にしてくれたプロポーズの返事、今してもいい…?」



遼ちゃん、

覚えててくれたんだ…



『大きくなったら遼ちゃんのお嫁さんになる!』




あの時の無邪気な私の言葉を、

遼ちゃんは、ずっと覚えててくれたんだね…。




嬉しくて泣きそうになる。


私は涙をこらえて小さく頷いた。




「俺が一人前の男になったら…

僕のお嫁さんになってください」



大好きな眼差しと声に

私の涙腺のネジが外された。



「はい‥‥」

溢れる涙と笑顔で遼ちゃんに答えた。




遼ちゃんは、右頬に薄っすらと笑窪を現し、

とても優しく、愛しい眼差しで微笑んでくれる。



「愛してる…」


遼ちゃんの言葉が、胸の奥に入ってくる。



「私も…愛してる……」





好き


大好き




愛してる……。

















泣きながら何度もキスをした。


甘くて、愛しいキス…。



キスをしているうちに、遼ちゃんは自分と私の制服を脱がせてくれた。



布団の中で、二人の体が重なり合う。



遼ちゃんの鼓動が伝わってくるよ…。



私の鼓動と重なる……。




トク・トク・トク‥‥‥






遼ちゃんも、胸がいっぱいになっているのが伝わってきて嬉しかった。





遼ちゃんの温もりの中…



とても優しいキスをいっぱいしてくれる。


とても優しい声をかけてくれる。



何もこわくなかった…。




遼ちゃんと重なり合う手‥


同じ時を刻んでいる時計…



























永遠を誓ったこの日、


私は何もこわくなかった…








ずっと


ずっと遼ちゃんと





同じ時を過ごせると思ってた……




























今年初めて雪が降った夜

私は待ち合わせをしている桜丘高校の前に立っていた。



真っ暗な空から白い粉雪が降り注ぎ、

街灯の光がきらきらと雪を輝かせる。



白くなった息が、冬の寒さを感じさせた。




「ごめん、待った?」



首を横に振った私の鼻先が赤いことに気づいた柏木先輩は、

ポケットから出した温かいコーヒーを私の頬にあててくれた。


「俺が無理に誘ったのに、迎えに行けなくてごめんね」


「無理だなんて…誘ってもらえて嬉しかったです」



柏木先輩は、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫…?」


「はい。大丈夫です」


私は笑顔で答えた。





二人で校舎に入ると、古びた木の廊下の音が迎えてくれた。


懐かしい音…。


前よりも音が大きくなってる。





あれから15年…





以前よりも古びた校舎が、


15年の時が経っていることを感じさせた。













体育館に入ると、懐かしい顔がいっぱいあった。


一緒に忘れられない思い出を作ったブラスバンドの仲間たち…。




今日は桜丘高校の最後の定期演奏会。



少子化などが原因で、桜丘高校は今年度で廃校になることが決まった。



ずっと避けていたブラバンを、もう一度聴こうと思えるようになったのは、

廃校の知らせがきてからだった。




思い出がたくさん詰まった校舎、


音楽室が消えてしまう前に、




もう一度自分の体で、桜丘高校を感じたかった。




遼ちゃんを、感じたかった…。













こわかった。


遼ちゃんを思い出すことが…。





遼ちゃんを失ったら生きていけない


そう思ってたのに、



私は生きてる。





こうして息をしている。







あんなに愛してたのに



遼ちゃんを失っても、



私は生きている。






生きている私を、


私は受け入れられなかった…。





だけど、生きたいと思えるようになったのは、


お腹に遼ちゃんとの子がいたから…。







私達の希望が、生まれてきてくれたから…。
















私の20歳の誕生日に、遼ちゃんと私はみんなに祝福され結婚をした。



遼ちゃんは黒いタキシード。

私は真っ白いドレスを着て、誓いのキスをした。



そして、合宿のきもだめしの時に思い浮かべた夢を二人で叶えた。


婚姻届に、遼ちゃんの名前と私の名前を並べて書いたんだ。




結婚式の後、遼ちゃんが私のお父さんに言った言葉…。


『どんなことがあっても、葵を守ります』




嬉しかった…。


本当に嬉しかった…。








結婚してすぐに、私が妊娠していることがわかり、

遼ちゃんは凄く喜んでくれた。



『俺達のところに来てくれてありがとう』って


まだ大きくない私のお腹に何度も声をかけてた。



そして私にも『ありがとう』って…。




私が『そういう言葉は産んでから言ってよ』って言うと、


遼ちゃんは『だって嬉しいんだもん』って嬉しそうに笑った。







すごく幸せだった…。



これから、もっともっと幸せになると思ってた…。










お腹が大きくなった私と遼ちゃんは、

出産予定の病院で開かれる父親教室に行った。



遼ちゃんは赤ちゃんと同じくらいの重さをお腹につけて、

『こんなに重たいの!?』って驚いてた。


陣痛を和らげるために腰やお腹を擦ったり、呼吸法の練習もした。



病院の帰り道、同じと時計を付けた手を繋いで歩いていると、

遼ちゃんは『母親って強いんだな‥』って呟いた。



そして、私に優しく微笑みかけて言ったんだ。


『葵、俺達ずっと一緒にいような。
俺、葵も生まれてくる子も絶対幸せにする』




私達は微笑み合った。




これからの未来を想像しながら…。










だけど、


その未来は奪われた。









声を出す間もない出来事に



私達が想像していた未来は奪われたんだ。











車道を走っていたトラックが、歩道を歩いている私達をめがけて走って来た。





遼ちゃんが私を突き飛ばし、車道に倒れ込んだ私が目にしたのは



真っ赤な血で染まった遼ちゃんだった。





トラックの下で動かない遼ちゃんに駆け寄ると急激な痛みがお腹に走り、

血に染まっているのは遼ちゃんだけじゃないことに気がついた。




私達はすぐに病院に運ばれたけど、

その時のことはあまり覚えていない。



ただ、遼ちゃんとお腹の赤ちゃんのことだけを思っていた。




遼ちゃんを失ったら私は生きていけない…


そう思っていた。






私はすぐに手術を受け、帝王切開で赤ちゃんが産まれた。



まだ2000gにも満たない小さな赤ちゃんの産声…


その声は、まるで空にまで届くような元気な声に聴こえた。









遼ちゃんは…?


遼ちゃんにも聴こえてるかな……





手術室を出た私は、看護婦さんに遼ちゃんがどこにいるのかを聞いた。



看護婦さんは、困った表情で医師に話しかけに行き、


その若い医師が私の所に来て言った。





『小川遼さんは、先程‥お亡くなりになりました…』