「ヤバ……。
ごめん結城くん!聞かれたらうまく誤魔化しといて!!」


小声でそう囁いて、走り去ろうとする詩織。

オレはその手を掴んで、再び下駄箱の隅に詩織の体を押し付けた。


「へ…?ゆ、結城くん……??」


訳が分からないと言う風に小首を傾げる彼女の唇に人差し指を当てて。

やわらかく微笑む。


「オレが何とかしてやるよ。その代わり、絶対に声を出すなよ?」


絶対に、を強調して、囁くと。

戸惑いながらもコクリと頷いた。

その答えに優しく微笑んでから。

まず自分のブレザーを脱ぎ捨てて、ワイシャツのボタンを全て外す。


「ちょっ!!結城くっ…!な、な、な、何して……むぐっ」


火が出そうなくらい顔を紅くして、声をあげそうな詩織の口を手で塞いで。


「声出しちゃ駄目だって言ったろう?」


そう言いながら詩織の胸元にあるリボンを解いて、ボタンを第二まで外す。


「んーー!!!!もがもがっ!」


「しー。大丈夫、変なことしないから。オレに任せて?」


暴れようとする詩織を、優しく押さえ付けて。


「オレを…信じて?」


そう囁くと、上げていた腕を下ろして、ゆっくりと頷いた。


それに微笑むと、詩織の口を塞いでいた手を離す。


すると丁度こっちに走ってくる足音と、さっきと同じ声がした。


「今こっちから声したよな?」


「したした、女の声だった」


そんな会話が聞こえる。


予想通り。

丁度いいタイミングだ。


「じっとしてるんだよ?」


そう念をおしてそっと顔を近付ける。

すると詩織の体がこわばったのが分かった。

…微かに震えてる。


それと同時に止まる足音。

数人の気配。

間違いなくこっちを見つけたんだろう。


「結城……?」


「兎街?」


よく知る2つの声と、ちょっとしたざわめき。


「詩織、しゃがんで」


すごく小さな声で合図をだして、気配にゆっくりと振り向く。